1時間半と12km

バスの乗り継ぎで、およそ1時間半待つ必要がありました。目的地まで約12キロ。いつもだと読書でもしながら、のんびりと1時間半の待ち時間を堪能していたはずです。でも、先日は秋の心地よい日だったこともあり、目的地まで歩いてみたくなりました。


目的地までわずか12キロですが、アップダウンのある山道です。実際に歩き出してみると、しばらくは「やっぱり引き返そうかな」という気持ちと格闘する必要がありました。しかしながら、秋晴れの心地よさが、怠惰な私自身の背中を押してくれました。


最初の急な上り坂を登りきったところで休憩しました。上着を一枚脱ぎ、呼吸を整えます。日陰で休んでいると、涼しい風が吹いていくのを感じます。「あなたが今感じている風は、過去に生きた人との邂逅である」。そのようなことを説明している本がありました。あるいは、「あなたが今感じている風は、未来を生きる人との邂逅である」といった言葉もあったように思います。


あまりにも心地よい風でしたので、そんなことを思い出しながら、再度歩き始めました。「最初の関門」を超えると、その後のアップダウンは比較的スムーズに歩いていくことができました。休憩を挟むことなく、山や川の景色を堪能しながら歩き続けていきます。途中でたまに車が通り過ぎていく以外、人と会うことはありません。夜なら絶対に歩かない山道ですが、その日はやっぱり心地よい秋晴れの日でした。


歩きながら川の中を覗き込んでいると、石の上に亀や鳥がいるのを見つけました。山を見ていると、雲の影が山の一部分を曇らせています。目的地まで徒歩で移動しているというよりも、遠足をしている気分でした。


結局10キロくらいまで一気に歩き、そこにあったバス停で10分少々休憩していると、待っていたバスがやってきました。残りの2キロ程度はバスに乗り、目的地に到着しました。


今まで一度も歩こうと思ったことのない道程でしたが、その日はやっぱり「過去を生きた人」と「未来を生きる人」との邂逅があったのでしょうか。山道を一人で歩いていても、不思議と一人でいる感覚はなく、ずっと親しい人と一緒に遠足しているような、夢を見ているような、そんな楽しい気持ちで歩き続けることができました。