福沢諭吉氏の「学問のすすめ」という本のタイトルと出だしの言葉「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」は非常に有名ですが、私自身、実際に「学問のすすめ」という本を通読したことはありませんでした。
本来であれば、時間のたっぷりあった学生時代にでも読んでおくべきだったのでしょうが、学生時代を取り戻すことができるわけではありません。社会人になると、どうしても読書にとれる時間が限られてきますから、徐々に優先順位というものを気にするようになります。そうなると、経済や経営の本など、仕事に直接関係する本を読む時間が多くなってきます。
でも、ときどき、自分自身を内省する読書を楽しむことがあります。これは、大学院時代に教えていただいた先生の影響がかなりあると思います。「本当の知性とは何か。本当の知性とは、答えのない問いを問い続けることである」と教えられました。
簡単に答えの出ない問いを持ち続け、問題意識、目的意識を持って日々の仕事、生活に向き合っていくことが大切だということです。例えば、目の前の小さな業務に取り組むにしても、それを本当に突き詰めていけば、きっと深い部分の自分自身と巡り合うことができるということでしょうか。
最近、現代語訳の「学問のすすめ」を見つけ、早速読みましたが、これはいいと思いました。現代語訳ですので、どうしても訳者個人の意図が入り込む余地はあるでしょうが、この本はそういったものをほとんど感じさせることなく、福沢諭吉氏を現代に甦らせてくれた気がしたからです。
当時からすでに西洋文化かぶれを批判的に捉えていますし、また、「独立」して生きることの意味を説いています。つまり、「独立」とは、目に見えるかたちで経済的に独立するだけではなく、目に見えない「精神性」においても独立することが大切だということです。
また、「学問のすすめ」の中には、議論と実行が齟齬しないことが重要であると説いています。まさに「知行合一」の精神でしょうか。そう考えると、「明治」という時代は大きなうねりの中で突然開かれた時代ですが、その時代を生み出したのも、それまでの日本人が培ってきた深い精神性に依る部分が非常に大きいということでしょうか。
ぜひ、このような名著の現代語訳がたくさん出てくればと思いました。