「労働に従事しない者」

松本清張の小説を読んでいます。数十年前に書かれたものなのにとても読みやすいし、また、ストーリー展開がとにかく面白い。最近では「紐」を読んだのですが、半世紀以上も前にこんなにも本格的な推理小説が書かれていたのかと、只々驚かされました。

 

また、今読んでも新鮮さが際立つ小説だからこそ、その時代を浮き彫りにする言葉がいくつかありました。例えば「ハイカラ」。意味はわかりますが、「そう言えば最近は使わなくなったな」と感じました。「テンピ」に至っては、初めて触れた言葉であり、検索してその意味を知りました(ちなみに、調理器具のオーブンのこと)。「文化的」という言葉は、何となく意味は理解できるような気がしますが、実際のところはその時代を生きていない限り、本当のニュアンスを把握することは不可能なのかもしれません。

 

「紐」という小説の中で特に注目したのが以下の文言です。

「被害者は労働に従事しない者、たとえば、会社員か、商人」

 

令和の時代を生きる私たちの感覚からすれば、「え、会社員や商人って、労働に従事してないことになっているの?」と不思議に思います。これこそ、この時代を生きていないとわからない文言なのでしょう。

 

例えば、今の私たちは「会社員」という言葉を当たり前のように使用していますが、50年後の未来を生きる人たちからすれば「会社員って何?」と思われているかもしれません。

 

私にとって新鮮なストーリー展開の中に、その時代の肌触りが散りばめられていて、その対比がとても面白い小説でした。