高い壁

先日の王位戦藤井聡太王位が豊島将之竜王に完敗したことが話題になっています。藤井王位の一ファンである私としては、豊島竜王が現在の藤井王位にとって大きな壁となっていることを素直に認めたいと思います。

確かにスケジュール的にいって、藤井王位のほうが不利であることは明らかです。渡辺明名人との棋聖戦と掛け持ちでタイトル戦を戦っていますので、藤井さんとしてはまずは棋聖戦を防衛することが最優先課題となっていることでしょう。

渡辺名人に二連勝していますが、ここから渡辺名人がどのように挽回してくるかわかりませんので、そちらのほうに注力したい気持ちが強いことと思います。

一方で、王位戦は始まったばかりです。棋聖戦は五番勝負であるのに対し、王位戦は七番勝負ですので、どうしても王位戦は長丁場の戦いとしてまずは目の前の棋聖戦に注力したい気持ちが強くなることでしょう。

 

それでもやはり、先日の王位戦は完敗だったようです。私が注目したいのは、藤井さんのマインドセットにあります。これから気持ちをどのように切り替え、渡辺名人との棋聖戦、豊島竜王との王位戦に臨んでいくのか。将棋ファンとして差し手も気になりますが、レベルが高すぎてその意味合いがよくわかりません。それよりも、今後の藤井さんがどのような気持ちでタイトル戦に臨んでいくのかを期待したいと思います。

挑戦者の二人は、現在の最高峰の棋士です。この二人とのタイトル戦をいかに楽しみ、いかに前向きに捉えることができるか。プロ棋士としてもちろん勝負にこだわらなければなりませんが、勝つことを意識しすぎるマインドセットであれば藤井さんにとって不利に働くように感じます。

「強い棋士との対戦はいつも楽しみ」と言っていたときの気持ちで、盤面に集中していただくことができれば、自ずと結果はついてくるのではないでしょうか。

 

個人的に藤井さんを「すごい」と思っているのは、将棋の棋力だけでなく、その精神力にあります。10代からすでに何度か殺害予告されており、精神力が弱ければ将棋を指すような状況ではなかったことでしょう。それでも対局し続け、目の前の盤面に集中する姿に感服していました。

豊島竜王との対局では、少し個人的な意識(苦手意識?)が見受けられるように感じます。今回の対局を通してひふみん(加藤一二三氏)が指摘しているように、序盤力ではまだ豊島竜王に分があるようです。

イチロー選手がなかなか打てない投手を「自らの可能性を引き出してくれる素晴らしい投手」と捉えたように、豊島竜王を「自らの可能性を引き出してくれる素晴らしい棋士」と捉えて、対局を大いに楽しんでいただきたいと思います。