初戴冠

藤井聡太七段が渡辺明三冠に挑戦していた棋聖戦は藤井七段が勝ち越し、藤井新棋聖が誕生しました。昨日はNHKでも速報のニュースが出ていましたし、改めて注目度の高さを実感しました。

 

昨日の藤井新棋聖の記者会見を見て感じたことですが、藤井新棋聖からすればタイトルを獲得すること自体大きな目標であったことは間違いないとは思いますが、初タイトルを獲得したあとは、もうすでに次の目標に気持ちが移行しているような気がしました。

 

周りの大人たちは大騒ぎしているのに、当の本人は泰然自若としていて、その温度差が垣間見えました。最年少のタイトル獲得で、これは三十年ぶりの記録更新だったのですが、藤井さんは年齢のことを聞かれると、一貫して「年齢のことについてはあまり意識していません」という回答を続けています。それは、本当に正直な気持ちだと思います。

 

「三十年ぶり」というと、実際に三十年以上生きてみないとその時間軸を実感することはできません。「日本は七十五年前に終戦を迎えた」という歴史を学んだ時、学生だったときは「ずいぶん前の出来事」という印象でしたが、実際に自分自身が五十年近く生きてみた現在、「かなり最近の出来事だったんだな」という印象に変わりつつあります。それと同じような感覚が、いろいろな場面で出てくるのかもしれません。

 

今回の初戴冠で改めて実感したことですが、私たちは事実に対して何らかの意味付けを行い、物語をつくっていくことで生きる勇気や目的に転換していることが多かれ少なかれあるようです。例えば「三十年ぶりの記録更新」であったり「東海地方に初めてタイトルを持って帰る」ということであったりします。杉本師匠も言っていましたが、「東海地方にタイトルを持って帰る」ということは故板谷進九段からの悲願だったため、その重みは杉本師匠のほうが強く実感していることと思います。もちろん、事実を捻じ曲げて偏向報道されたり主義・主張されたりすることは十分に注意していく必要がありますが、今回の快挙は素直に喜ばしい出来事で、対戦者だった渡辺明二冠も受け入れていらっしゃるのではないかと思います。

 

藤井さんの昼食は味噌煮込みうどんだったそうですが、記者(東海地方の記者だと思いますが)の「昼食を味噌煮込みうどんにした理由は何かありますか?」という質問に対して、「いや、特には。味噌煮込みうどんは愛知県の名物で…」とはにかみながら回答しているのも印象的でした。

 

藤井新棋聖が誕生しても私自身の人生が何か変わるわけではありませんが、確かに何等かの勇気や前向きな気持ちを得ることができました。今後も一将棋ファンとして、注目していきたいと思います。