言い切る力

一連の福島原発問題の報道を見たり聞いたりして、NHK「プロフェッショナル-仕事の流儀」という番組のある脳外科医のお話を思い出しました。


彼のもとには、他の病院で「お手上げ」とされた患者さんがやってきます。当然ながら「難しい状態」の患者さんが多いため、手術は相当な技術力と精神力が求められます。手術が成功する可能性は、五分五分のときも多いようです。でも彼は、次のように言っていました。

「僕は患者さんに手術の説明をしたあと、『大丈夫、お互い頑張りましょう!』と言うようにしています。そのやり方に対して、弁護士からは『もし失敗したら、大きな医療訴訟になるリスクがあるので、そんなことは絶対に言わないでください』と叱られています。でも僕は、不安そうにしている患者さんとその家族に勇気を持って手術に臨んでもらいたいので、そう言い続けるようにしています」


福島原発問題は、確かに予断を許さない状況が続いているのかもしれません。最悪の事態を想像すれば、ぞっとすることも確かです。でも、あくまで私自身の反省ですが、いくら不安感を高めたところで事態が好転するわけではありません。手術でもそうですが、あとは現場で取り組んでいる人を信じ、私は私のやるべきことに打ち込むべきなのかもしれません。


今のような状態では、「漠然とした不安」が一番怖いと思います。そのことが原因で謂れのない偏見が生じたり、最も真剣に向き合うべき災害の実状を掠めさせたりしてしまいかねません。


だから今こそ、あの脳外科医のような「プロフェッショナル」が求められているのかもしれません。福島原発問題においても、「大丈夫かどうか、わからない」というのが本音なのかもしれませんが、事態の収束に向けてまさに命懸けで取り組んでいる現場の人の「大丈夫、お互い頑張りましょう!」という無言の声が聞こえてくることを信じたいと思います。