深夜のガソリンスタンド

大学5年生(一年就職浪人していました)のとき、深夜のガソリンスタンドでアルバイトをしていました。1年余分に大学に通わせてもらっているわけだから、少しでも自分の生活費を稼ごうと思って始めたアルバイトだったわけですが、今になって思えば、とても貴重な経験をさせていただいたと思います。


深夜0時を過ぎると、いくら都内の幹線道路沿いにあるガソリンスタンドであっても、なかなかお客様は入ってきません。そのため、店長など、幹部社員のいなくなる深夜0時以降の時間帯は、アルバイト同士で伸び伸びできる(?)時間帯に入っていきます。もちろん、決められた業務は順序どおり対応する必要がありますが、お客様の全然来ないときには、椅子に座ってアルバイト同士でいろいろ世間話をする時間が長くなっていきました。

ある時期、私と一緒にアルバイトしていた人は、昼間は有名企業に勤めていました。でも、昼の仕事だけでは生活が厳しいということで、深夜のガソリンスタンドでアルバイトを始めたそうです。昼間の激務をこなしてから深夜のアルバイトに来られるため、その人はいつも疲れ果てていました。

当時の私(今もそうかもしれませんが)は、「人に厳しく、自分に甘い人間」であったと思います。確かにそのオジさんは昼間働いているのだから、疲れ果てているのは仕方のないことかもしれませんが、アルバイトの時給は私と同じです。だから、私と同じだけ働いていただくために、交互に給油するようにお願いしました。そのときの私の気持ちは、相手を思い遣るものとは程遠く、「自分だけ余分に働くのは損だから・・・」という、非常に自分の都合だけを重視した考え方であったと思います。

今思えば、私のお願いした内容自体は間違ったことではなかったのかもしれませんが、指示する言葉の裏にどのような想いが隠されているのか、その部分をもっともっと重視する必要があったと反省します。


そのオジさんは、いつも疲れ果てていて、鈍感だった学生時代の私でも「かわいそうだなあ」と思うくらいでした。でも、ある意味では、今でも羨ましい人だなあと思います。

彼が深夜のガソリンスタンドでアルバイトを始めたのは、自分の娘が有名進学高校に合格したからとのことでした。その高校の学費は非常に高額であるため、彼が身を削り、深夜のアルバイトをすることで、なんとか娘の頑張りに応えてやろうとしたわけです。私が「○○高校に合格するなんて、娘さんは頭がいいんですね」と言うと、そのときだけ疲れ果てた表情が晴れやかになり、「いやいや、大変なだけですよ」と言ったときの表情が印象的です。それだけ頑張ってやっていける理由があるということは、今でも、今だからこそ余計、とても羨ましいことだと思います。