「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」
この句は、松尾芭蕉の辞世の句とされています。あるいは、
「この道や行く人なしに秋の暮」
この句を、辞世の句とする見方もあるようです。どちらも、松尾芭蕉の心境がにじみ出てくるような迫力を感じます。
「辞世の句」ともなると、その作品に対する注目度は高まりますが、松尾芭蕉からすれば、どうもそれだけが「辞世の句」ではなかったようです。つまり、作り上げた作品のすべてが、松尾芭蕉にとって「辞世の句」の覚悟だったようなのです。
もちろん、松尾芭蕉本人に聞いてみなければ真実はわかりませんし、当然ながら、そのことを本人に聞くことはできないのですが、このお話を聞いて、妙に納得できました。
何かを真剣に創作している人からすれば、きっと作品のすべてがその人にとっての「辞世の句」であり、「遺作」であるのでしょう。一方、世間から「辞世の句」や「遺作」とされるのは、たまたまその人が亡くなるタイミングによって、あとからそのように捉えられるだけなのかもしれません。
つまり、大切なことは、目の前の仕事をそのような覚悟を持って取り組んでいるかどうかということです。自分自身は、そのような覚悟がまったく足りていないと、大いに反省させられます。取り組む仕事のすべてに「辞世の句」の覚悟を持って臨むことができれば一番よいのですが、なかなかそうもいかない弱さが自分自身の中にあります。
でも、そのような「理想形」を自分自身の中のどこかに持って、多少の濃淡はついてしまうかもしれませんが、「理想形」を追い求めつつ、目の前の仕事に取り組むことができればと思っています。